暇つぶし小説 「世界の全てを知っていた虫」

雑談

 私は光の中で生まれた。そして、そろそろ終わりが近いみたいだ。

 過去など考えた事もないが、他にする事もないので残りの時間で人生を振り帰っている。あるいはこれが走馬灯か。

 私の住処に頻繁に訪れる”人間”という生物は私の事を「カマドウマ」と呼ぶ。

生物には”親”というものが必ずあるらしいが、私が物心ついた頃にはいなかった。

兄弟はいたのかもしれない。

 私の世界に存在するのは、たまに入ってくる小さな虫と私だけだった。

彼らはいつも突然現れる。そして、突然消えていくやつもいた。

捕まえて食う事も難しくはないが、しばらく飛び続ければ私の住処で力尽きていくので

その死骸を食って生きてきた。

 どんな一生だった?と聞かれれば、

気が向けば動き、腹が減れば小さな虫たちを喰らう。その繰り返しだった。

数十センチしかない世界だったので、この世界で私が知らない事などすぐになくなった。

我ながら天才だったのではないかと思う。天才故にこの世界は退屈すぎた。

規則性のある光と闇の時間を繰り返すだけの世界だった。

 もう語る事がない。なんと簡素な人生だっただろう。

「ガチャ」

昨日から来ている人間が帰って来たようだ。

やつらの声を聞きながら死ぬのも悪くない。

 



男「最高のお風呂だったな。露天風呂の眺め最高じゃなかった?」

女「そうね。内湯からの眺めも良かったね〜」

ふぅ〜〜!

男はそう言ってベッドに仰向けに倒れこむ。

男「ここの部屋、全体的に素敵だけど電気汚いね」

女「ほんとだ、いっぱい黒い点あるね」

男「何の汚れなんだろう」

そう言って男は天井のライトに近づく。

男「あ〜、これ虫か」

女「え?虫?!キモっ!」

男「まぁ、ライトに虫入っちゃうのはしょうがないでしょ…….ん?!コレ….」

男「カマドウマじゃね?!デッカ!キメー」

女「マジで?うわっ!!ホントだ!」

男「だよね。この足とか触覚の長さ。」

女「どうやって入ったんだろうね」

男「ジャンプして届く高さじゃないよな。全然隙間ないしライトの中で生まれた説あるね」

男が笑いながら言う。

女「それか、ホテル従業員がライト交換の時に捕まえて入れたとか?」

女も笑う。

男「最悪の生まれ方してるな」

女「虫が一匹で生まれないよね…..もしかして、兄弟とか親食ったんじゃない?」

男「すごい事言うなぁ。でもここで生まれたんなら兄弟くらいは食ってるかもね。こいつの死体しかないもんなぁ……..なんか微妙に触覚動いたかも?」

女「気持ち悪いからチェックアウトしよ」

男「よし、ちょっと早いけど出るか。今日はいろんなとこ見に行きたいからな!」

ガチャ

ドアの締まった音と同時に電気も消えた。

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